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幻想
32




叢の道は、思ったより狭かった。
やはり子どもが通る道である。大人の身体をしている私には些か狭すぎる。隠し通路を通ることに対し、あまりに考えなしだった。
カトル様でさえ、その衣服に草を付けられているのだ。私が通れば草塗れになることは避けられないだろう。少なくとも服が破れたりしないようにしなければ、戻ったときラビィに言い訳もできないだろう。

「もう少し!」

「ああ、分かったからもう少しゆっくり進んでくれないか?」

背の低い木々の中を四つん這いになって進む。周りの木々に阻まれ、私の前を行くカトル様にかなり離されてしまった。流石子どもというか。このような道でもスイスイと行ってしまう。何とかカトル様に離されないよう、頑張って進むが大人の身体には不利な点が多過ぎる。

「………る?」

そんな時、不意に人の声が近くに聞こえた。
胸が大きく脈打ち、その場に制止した。
どうやら若い女性のようだ。しかも二人ほどいる。下女だろうか?

「……陛下ったら、またお気に入りを変えられたようなのよ」

「アバティーノ伯爵の御子息でしょ?もうみんな知っているわよ」

彼女たちは陛下の噂話をしているようだ。
存在を気付かれないように息を殺して身を顰める私にとって、嫌でも彼女たちの会話は耳に入ってきてしまう。

「確かに線も細くて顔も女性的で美しい方だけど、男だからね……」

「どんなに励んでも御子はもうけられないって言いたい訳?」

「そりゃあ、やっぱり大切じゃない?陛下の御子息がたくさん誕生した方が国も安定じゃない?」

「別にいいじゃない。もう跡取りのカトル様もいらっしゃるんだし。そんな子どもとかに拘る必要なんてないわよ。正妃様との間にもいらっしゃらないんだし」

「そうよね……正妃様との間に御子ができれば一番だったんだけどね……」

「もう、そんなこと言っても仕方ないでしょ!子は授かりものなんだし!くだらないこと言ってないで、仕事仕事!」

その言葉を最後に、二人の気配が離れていくのを感じた。
どうやら、難は逃れたらしい。
張り詰めていた緊張も解け、口からは安堵の息が出る。

それにしても……男同士ということはこういったことも考慮しなければならないのか。
考えてみれば当たり前だが、子どもができる訳ではない。非生産的な関係だ。彼女が不満に思うのも仕方ないのかもしれない。国民であれば、誰しも国の繁栄を願う。王の御子が多ければ多いほど国の基盤はしっかりしたものになるという考えも強ち間違ってはいないだろう。女子であれば他国へ嫁ぐことにより同盟国との結びつきが強くなり、男子であれば国の重要役職へ付かせ王の負担の軽減を図ることが可能である。しかし一方で派閥争いが生じることもある。言わば諸刃の剣とも成り得るのだ。

現在カトル様が王座を継ぐことが濃厚ではあるが、第二王太子殿下もいらっしゃられる。お二人が成長されたとき、兄弟間で醜い争いなど起きなければ良いのだが……。
お二人とも妾后の子であるため、継承権が確実にあるということはない。今はカトル様が優勢というだけのことだ。
もし正妃様に子がいれば、確実にその御子が継承権を持つことになるのだが……。こればかりは先程の下女が言っていた通り授かりものである訳だし仕方がないことだ。

カトル様が正妃様の御子であれば……。
………カトル様?
気付けば、目の前からカトル様の姿が消えていて、一人私だけがこの場に残されていた。




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あきゅろす。
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